ソファに偉そうに踏ん反り返ってペラペラの紙に目を通し、時折ガリガリと左手で頭を掻く。折角きちんと結った(ああ見えて意外と器用だからおそらく本人がしたものだろう)みつあみが徐々に乱れていくのがだらしなく見えた。
「鋼の。髪がぼさぼさになる」
「あんだよ。気になんのか?」
「いいや。ただ、みすぼらしい子供だな、と」
「うるせー」
むっとした様子で、それでも言われたことが気になったのかみつあみを解いて首を横に振る。バサバサと金色の髪が数度宙を舞った(それは少しだけ綺麗だと思ったがあえて黙っておく)。しかしそれもすぐ、また左手でがしがしと後頭部を掻くのに乱れ、絡まっていく。
「あーくそ。なんだよこれ、どうなってんだ」
「どうもこうも。絡まっているな」
「ああーそうだな。もうぐるぐるとな」
「そうだろうとも。そんな風に適当に掻き毟るからだ」
「は?」
「『は?』?」
急にぽかんとしてこちらを見られて、ついそのまま問い返すような言い方をしてしまうと、子供はすぐに理解したのか(元々はかなり賢い部類には入るであろう)目を平らにして右手に持っていた書類を左手で軽く叩いた。
「俺が言ってるのは紙」
「私が言っているのも髪のことだぞ」
「あんたの書き方が難解すぎるんだ。性格出てるよなー」
「鋼のの掻き方が適当すぎるからだ。もう少し丁寧にしたまえ」
すれ違った会話を、それと知りつつ続けるとちらり、と横目で見て、満足そうに笑って自分の頭を指さした。
きらきら光る、金色の。
「結ってよ。みつあみ」
「断る」
きっぱりと言い切ると、にやりと笑って子供は立ち上がった。
すたすたと歩みより、椅子の後ろにわざわざ回りこむ。普段とは違った位置からの視線を感じながら、振り向かないで問い掛ける。
「何をするのかね」
「決まってんだろ。あんたがしないなら俺がしてやるよ。みつあみ」
それはないだろう、と振り返ると金色の髪を宙に舞わせて逆光の中、どこかの国の神のような外見をした(神など見たこともないので想像でしか無いが)子供が、その手袋に覆われた(その方が逆に崇高に見えた)指を、黒い髪に絡めた。