+トウソル
不愉快だ。とてつもない不愉快だ。その原因を知ってか知らずか、余裕綽々のその顔が憎らしい。ああ、お前はいつだって確信犯なんだ。振り回されるのが癪で知らない振りをし続ける俺をあざ笑っていることくらい知ってる。だから俺はお前が嫌いだ。
「ソルってさ、顔、固定されてたりする?」
「はぁ?」
「いや、俺もよく顰め面してたんだけどさ。あ、小さい頃な。そしたらネスがすぐに『固定するぞ』なんて言うから笑うように心がけてたんだけど…そしたら、見ての通り」
ネスが顰め面で固定されてんだよね。
そう言ってへらへらと笑うマグナ。お前も笑顔で固定されてるぞ。
「さあな」
「ふぅん。まぁいいんだけど」
いいのなら話を振らないで欲しい。コイツはイマイチつかみどころがないところがトウヤに似ている。
「ネスにさ」
また『ネス』か。
「トウヤ、何の話してるんだろう……」
眉間に皺を寄せながらマグナは俺の後方を睨むように言う。振り向くのが癪で俺は目の前のコップに手を伸ばした。
そこにいるのか、トウヤは。
「……大方、誓約者についてじゃないのか?」
「そう、だろうけど」
「気になるのなら話してくればいいだろ」
「そうもいかないよ」
肩を竦めるようにしてへらへらと笑うとマグナも手前にあるコップを手に取った。一口飲んで息を吐き出すとまた笑う。けれどいつものへらへらとした笑みではなく、遠くを見ているような苦笑で。
どこかトウヤに似た。
「だから俺はここにいるんだ。ネスが気付くのを待ってる。知ってる?ネスって結構ヤキモチ焼きなんだよ」
平然と俺をダシに使っていると公言する。
ああ、やはりお前はトウヤに似ている。全てを知っていて俺たちを罠に嵌めようと待ち構えている確信犯。
ならば俺はお前をダシに。それでいいだろお互い様だ。
俺も一口飲んで息を吐くと、マグナは笑って俺のコップと自分の持っているコップを触れ合わせた。
お前の大事な『ネス』と、話している『バカ』は普段策略家の癖に単純な罠に弱いってこと、気付いているんだな。
だから俺はお前が嫌いだ。