ふわり、金色の風が舞う。
それはまるで御伽話のように。まるで、別世界のように。
あれは、神様の金色だ。
「あー…黄色か」
「何が」
大輔が零した言葉に賢はひょいっと大輔の手元を覗き込んだ。しかし彼の手には自分の手元にあるものと同じ、チョコレート菓子しか見当たらない。
「何が、黄色なのさ」
「ああ?なにって、エンゼルだよ」
「エンゼル?」
「何、お前、知らねえの?」
もしかして、信じられない。そんな含みの言葉に賢はむっとしながらも「知らない」と答える。
「ホラ、ここな。このくちばしに天使の絵があったら、いいんだよ」
「ふうん。こんなの?」
こんなの、と賢が大輔の目の前に自分の持っていたチョコレート菓子を差し出す。そこには紛れもなく、銀色の小さな天使が居た。
「銀のエンゼルじゃんか…!」
「へえ。銀は5枚か…」
箱の裏側の説明文を読んで、感心したように賢が言ったのに大輔はううん、と困ったような声を出した。
「銀5枚は集める前に無くなるんだよなー」
「へえ。……じゃあ、これ、大輔にあげるよ」
「へ?」
「絶対、無くすなよ」
にやり、不敵に笑う賢にこのお、と大輔は賢の頭を小突いた。
「見てろ、絶対集めてやるから」
「それで、どうして僕が呼ばれたワケ?」
ふわりと金色の髪をなびかせながらタケルは溜息を吐いた。
「だから、言ってるだろ。銀のエンゼル5枚か金のエンゼル1枚集めなきゃいけねえんだよ」
金のエンゼル1枚は集めると言わないんだけどな、と思いつつもタケルは生半可な返事を返す。正直、どうでもいい。
「だから、どうして僕なワケ?まさか金色だからとかつまらないこと言わないよね」
「いやあ、お前運良さそうだしさー」
「……やっぱ、少しは思ってたんだ…」
呆れた、とタケルが零すのに大輔は苦笑いを浮かべながらもチョコレート菓子を手に取った。
「まあ選んでくれよ。賢の為に」
「どこが一乗寺君の為なのさ。モロ自分の為じゃん。……まあ僕も君が銀色天使を5枚集められるか楽しみだけどね」
どうせ集められないだろうと踏んでいるのかタケルはへらへらと笑いながら大輔の持つ籠の中に件のチョコレート菓子を3箱、入れた。
見ろよ、と差し出された大輔の手に、5人の銀色の天使が居た。
「あ、集まったんだ」
「おーよ。サンキューな、タケル」
「ああ、お役に立てた?」
「まあな。やっぱお前って運いいなー」
「そうだったの」
自分でも知らなかったなあと思いつつタケルは頷く。
「それで、応募しないの?」
「あー駄目だ。あと一枚足りない」
「へ?5枚、あるよね?」
大輔の手の中の銀色天使の数をタケルは3回数える。何度数えても確かに、5人。
「1枚使えねえんだよ」
「何で」
「無くすなって、言われたから」
誰に、と説明するでもなく、胸をはって言う大輔にタケルは一瞬呆気にとられる。
無くすなって言われた。言ったのは誰。考えるまでも無い。
……バカか、こいつら。
「無自覚ってところが信じられないよね」
「何が」
「何でも無いよ。で、今日も付き合えばいいの?」
「あ?おうよ!あと1枚だからな!」
にこにこと笑って、待ってろよ賢!なんて叫ぶ大輔にタケルは溜息を吐く。
「本当に、信じられないよ」
大輔がそっと差し出した、小さな包。
「何、コレ?」
「例の銀のエンゼル、溜めて出したんだってさ」
呆れたタケルの声に、賢も呆然とした表情で大輔を見た。
「例のって?」
「前にお前が俺によこしたヤツだよ!」
「前に?……ああ、アレか」
本当に思い出せたのか怪しい返事で賢はあーアレかーアレねーと3度繰り返した。
「それで、どうして高石君が?」
「僕も集めるのに協力したから。やっぱ何が届いたのか気になるし」
「ふうん。で、何にしたの?」
「あー月」
「またなんで」
月なんて、似合わないよねえと言うタケルに賢も小さく頷く。
「煩いなー。開けるぞ!」
まあ、そんなもんだよな、と大輔が言うのにタケルと賢もこくりと頷いただけで言葉は無かった。
「あーくそ。次は太陽な!太陽!」
「また5枚集めるの?」
「当たり前だろ!」
「あれ?銀のエンゼル1枚余ってるでしょ?あれはどうするの?」
「タケル!」
平然と、何気なくタケルが零した言葉に大輔は過剰反応してへらへらとした笑みを賢に見せる。
「……あと1枚って?」
賢は慣れたもので大輔には問わず、タケルに問い掛ける。
「君に貰った一枚、無くせないからって」
「タケル!いや、その、賢、あのな」
「……バカだなあ」
しどろもどろと言い訳を考える大輔に、賢は苦笑して「もう無くしてもいいよ」とだけ言った。
一人1個で3人で3個。チョコレート菓子をそれぞれが買ってベンチに腰かけた。
「でもさ、集めるってのは人間の深層心理的にいいらしいよ」
「へえ、そうなのか」
包装を破りながら大輔は生返事を返す。実際聞いていなさそうな大輔にタケルは苦笑して賢を見た。
「あー黄色」
「あ、僕も黄色」
つまらなそうに大輔と賢が言うのに、そう簡単に集まったら商売にならないじゃないか、とタケルはにこにこ笑いながら包装を解いた。
黄色いくちばしを持ち上げて、そこに描かれている天使を探す。
「あ」
「黄色?」
「うーん。金色」
へら、と笑いながらくちばしを見せるタケルに大輔と賢はまじまじと見て、それから顔を合わせた。