「ありがとう」
呟くようなその言葉を聞いた瞬間、全身の毛が逆立ったかと思った。
良かった、とジュエルがすぐ隣で涙声で呟く。タルは彼の肩をタルらしく触れる。ポーラも穏やかに微笑んでいるし、ケネスも嬉しそうだ。
なのに、どうしてか喜ぶ気持ちにはちっともなれなかった。
ラズリルの民は首を斬れと願い、だけどいざ斬ってしまえば恩知らずと言われ、だったら後味の悪くないように仲間にして飼い殺しにしてしまえばいいと思っただけだ。
ありがとうだなんてふざけるな。これは君のためじゃない。
海で、僕の知らないところで死んでいてくれたならいっそ楽だったのに。
辛くて苦しくてだけど嬉しくて、抱きしめてやりたいのか、殴ってやりたいのかわからなかった。
ぐるぐる頭の中でいくつもの感情が混じりあい、目元から一つ零れそうになったのをぐっと押し堪えて彼らに背を向けた。