「しゃがめよ、大佐」
目の前の少年(と呼んでいいのかどうかすら実際は怪しい)は唐突にそんな言葉を切り出した。
視線を逸らし、頬を膨らませて。
「君は自分の背を随分と自覚しているのだな」
「誰が豆粒どちびだ、この木偶の坊」
「言葉が間違っているぞ、鋼の。木偶の坊とは気の利かぬ者に対して使う言葉だ。今の会話には適切では無い」
笑って言えばうるさい、と子供のように(実際彼は子供だ)唇を尖らせて拗ねる仕草を見せる。
「気なんてあんた、利いた試しが無いじゃないか」
「何を言う。私ほど親切な人間はそうは居まい」
両手を上げて笑えば小さく上目遣いで睨んでくる。それすらも悔しいのかすぐに視線を逸らした。
「しゃがめよ」
抱きしめてやるからさ。
広げられる両腕に、何をバカなと笑いながらその金色の頭を抱きかかえる。
「私ほどの男が、君如きに抱えられるわけはあるまい」
くつくつと喉で笑う自分の声もまた、馬鹿馬鹿しいと思っていれば精一杯伸ばされた腕が背中に回される。
「抱えたくなんてないさ。俺は抱きしめてやるって言ってんだよ」
「それはどうも。好意だけ受け取っておこう」
君には私が重かろう。
その言葉にカチンときたのか、背中に回された腕にぐっと力が篭る。
仰け反って、両腕で精一杯支えて。
「足、上げてみろよ」
アルよりは全然軽い。
子供がそう笑うので、足を踏ん張って代わりにその体を宙に浮かせた。