既に夕陽と呼ぶに相応しい色に染まった太陽が傾くにつれて少女の黒髪がオレンジ色に鈍く光る。
彼の髪にも似た色に空は染めあがり、そうして闇を運ぼうとしている。
そんな中、少女はぼんやりと机に腰掛け、足を無意識でかぶらぶらとさせながら窓の外、沈むゆく夕陽を見ていた。
作ったような笑顔で――事実演技で少女は笑い、お嬢様のような言葉遣いで普段振舞うかの少女がそんな表情をすることがあるなんて、きっと彼しか知らない。
静まり返った廊下に響く足音に咄嗟に隣の教室に入る。
その教室の前を素通りした足音は、少女のいる教室の前で止まり、やがて戸の開く音がここにまで届く。
「終わったぜ」
「遅かったな。では、帰るか」
「別に待ってなくても良かったのになんで待ってんだよ」
「だからいつも言っておるだろうが。いつ何時――」
「わーったわーった。もういい。ホラ、早く用意しろよ。お前待ってたワリには何でまだ用意終わってねえんだよ」
「うるさい。ちょっとぼおっとしてただけだ!少し待っておれ!」
丁寧に喋る彼女が言葉を荒げるのは決まって彼の前でだけなのだろう。
あの日も、彼女は普段の姿から想像出来ない声で叫んでいた。
「一護」、と。
タイミングを見計らって隣の教室を出る。
目の前で丁度教室のドアが開いて少女が姿を現す。
「さよなら、朽木さん」
「え?あら、ごきげんよう」
すぐ側に居た僕に気付いていなかった彼女は急に話し掛けられ、戸惑いながらも柔らかく微笑む。その傍らで彼は苦い顔をして少女を見ていた。
素知らぬ顔で横を通り過ぎる。彼は僕をちらりと見て、それから少女に話し掛けたようだった。微かな声が僕の耳にも届く。
遠ざかる足音に、振り向く。
彼らの姿が廊下の角に消えるのを見送り、そうして誰一人いなくなった廊下が彼の髪の色に染まるのを見て、僕はもう一度別れの言葉を口にする。
「ごきげんよう」