迫り来る体に、呆気に取られている間に押し倒された、と思っていたら唇を奪われた。
ただ押し付けるだけの行為だったのに、どうしたら良いか迷っている間にちゃんとした愛撫へと姿を変える。まずい、と思って引き剥がすとやけに陶酔した目が俺を捉えていた。
「お前っ、何考えているんだよ!」
「わからないか?」
濡れた唇から零れ落ちた言葉は、少しコイツにしてはおかしな言葉に聞こえた。
「わからないから、聞いてるんだろうが」
「それもそうか」
そうか、じゃねえだろうと文句を言ってやろうと思って口を開けば、また覆い被さられる。今度は最初から舌を入れられた。ちょっと気持ち悪い。
こういうのはされるよりする方が断然いいに決まってる。
「っ、と待てって!話を聞け!」
「何だ。もしかしてファーストキスとか?」
「んなコタぁどうでもいいだろ!」
「僕には良くない」
「良くないって…」
今現在、ファーストキス云々とか言ってる場合じゃねえだろう。それ以前に他の場所のファースト、を奪われそうだ。
「ファーストキスなのか?幼稚園の頃にした、とか言うのは無しだぞ」
「あのなぁ、だから今はそんなことじゃなくてだな」
「どうなんだ?」
あまりにも真剣に問い詰められて――と言うよりは答えなければ話が進展しないような気がして――溜息と共に答える。
「ああ、そうだよ!悪いか」
「悪くない。それでいいんだ」
「それでいいって…ああ、まあいい。それで、だな」
目を細めて笑って、ふわりと顔を寄せられてとりあえず避けながら両手で頬を掴んで押し返す。隙あらばすぐにでもキスをしてくるのか、コイツは。
――もしかしてキス魔か?
「何故避ける」
「あのなぁ、ものには順序って言葉があるだろ!」
「順番を追えばいいのか?」
そう言われると少し困る。順番を追ってもやっぱヤりたくねえやつとはヤりたくねえし。
上手い言い訳を考えているとそっと、両手を取られた。
「何する気だ…?」
「…僕を、犯せ」
何を言われたのか、一瞬理解できなかった。
「悪い、もう一度言ってくれないか?」
言ってるそばから自らの手でネクタイを解いているのを慌てて止めようとその腕を掴んだ。
けれど逆に両手をくるり、とそのネクタイで拘束される。
「ちょっと、待てって!」
「僕を犯すんだ」
「だから意味わかんねえって!」
「わかりやすく言っているだろう。僕を抱け。犯せ。それだけだ」
拘束された両腕を振り回して、一発殴れば正気に戻るだろうか、と考えているのに実行に移せない。
圧し掛かってくるその体重や、何よりその視線がおそろしいまでに正気のものだと、そんなことを感じさせる。
「君は何もしなくていい。ただ、そこでじっとしてればいいんだ」
「どうしたってんだよ、いしっ…」
名を呼ぼうと、開いた唇がまた塞がれた。