男という性別で生を受けたことを後悔したことも、恨んだことも一度たりともない。
これは仕方のないことだ。女で生まれていたのなら僕はこれとはまた違う、けれども似たような種類である排泄行為をしただろうから、これは仕方のないことだ。
左手をそっと伸ばして触れてみる。既にこうする、と決めた時から僕の体は待ってましたとばかりにその場所の熱を高めていた。
嫌らしい、汚らわしい行為。
果たしてそうなのか。生理現象なんてものは仕方が無いし、汚らしいとこの行為のことを思うのならば生まれてくるまでに行われる、その行為はどうだと言うのだ。そんなことを棚上げして汚らわしいと口にするのか。どうして生まれてきたか、それを知ってなお。
だから、こんなことは男として生まれてきた以上仕方が無いんだ。
どれだけ嫌がろうと、触れば反応するし、擦れば勃つ。それは生体メカニズムで定められたことで、どれほどの意思を持ってしても本能には勝てない。それだけのことだ。
そこに感情を挟まなければ、これほど楽な仕事もないだろう。
意識を飛ばして、ただそのことだけに集中して、快楽を追う。終われば多少の気だるさと共に解放感に満たされる。――果たして、それで本当に満たされているのかは疑わしいが。
ただ、義務的だった。それだけだった。だから。
脳裏をよぎる彼の姿に首を振る。
違う。僕にはそんな感情は無い。そんな感情を伴って僕はこんなことをしているわけではない。
「くろさ――、っ、」
口を滑った名前に、手に滑る感触に、僕は自分が達したことを知り、呆然とする。
そんな馬鹿なことがあってなるものか。
彼なんて、僕は。