+トウソル
隣の部屋から僅かに(ここは壁が薄いらしい)聞こえてくる話し声に彼は苦笑いにも似た表情を浮かべた。
「どうやらソルと――ネスティは気が合うみたいだね」
「え?あ、そうみたい…だね」
間の抜けた俺の返事にも満足そうに何度か頷く。それから隣の部屋との壁をじっと見ていた。ついつられて俺も同じように隣との壁を見る。
薄汚れた白かったであろう壁から聞こえる、ネスの声と彼をここに呼んだきっかけになった――ネスに聞いたが無色の派閥の乱の首謀者の息子――ソルの声が明るく弾む。ああ、ネスってあんな風に笑うんだっけ。召喚術の話をあんなに楽しそうに、俺にしたことなんてないのに。
「悔しい?」
「え?」
気が付けば彼は俺の表情を窺っていたようで俺は慌ててかぶりを振る。そう、と彼はつぶやいてにこりと微笑んだ。
「でもさっきの君、そんな顔してたよ。悔しいような、悲しいような」
眉を寄せて、その時の表情を真似てくれているのか彼の表情も悔しそうな、悲しそうな顔だった。
「ああ、だって俺召喚師なのにネスとあんな風に召喚術の話したことなくって。そりゃあ俺じゃ召喚術の話し相手にならないことはわかってるんだけど」
「そうかな」
「え?」
「さっきの君の顔、大事なものを取られそうになってる子供みたいだったけど」
彼の言葉に俺は首を傾げてはぁ、と生返事をした。大事なものを取られそうに?何を、問おうと思い口を開きかけて、閉じる。
彼は先程と同じように隣の部屋の壁を見ていた。俺がしていたと思われる、あの表情で。
「僕も君の気持ち、わかるよ」
「え?」
「僕もね、不安になるんだ。彼があんなに楽しそうに話す相手なんてそう滅多にいないからね。……悔しいし、悲しい」
苦笑いにも似た、それでいて悲しい笑みを浮かべて彼はつぶやく。その言葉に、ああ、俺もそうなんだ、とぼんやり理解した。
「でもソルは渡さないから。誰にも」
「……俺、だって」
俺が笑うと彼も同じように笑って手を差し伸べた。その手をぎゅっと握る。
「僕たち、いい関係になりそうだね。ソルとネスティもね」
「うん。宜しく誓約者」
「宜しく調律者」
2人して大声で笑うと隣の部屋では相変わらず楽しそうに話すネスとソルの声が聞こえていたけれど、一瞬シンと静まり返り、ドアが開いた音が聞こえた。