すいと首を傾ける。じっと下から見つめていると、円堂の顔が徐々に雄の顔になるのがわかった。大きな目が自分をしっかりと見ている。自分だけを。
あまりの歓喜に風丸は微笑みかける。今だけは、今この瞬間だけは円堂は俺のものだ、と誰かれ構わず言いふらしたかった。例え始まりがどんな理由であっても、今の円堂の頭の中では大事なサッカーですら追い出すほどに、自分でいっぱいになっていることが嬉しくてたまらない。
「円堂」
手を伸ばし、腕を円堂の首に回す。円堂は黙って受け入れるどころか風丸の背に手を回し、ぎゅうと抱きしめてきた。これが喜びでなくてなんと言うのだ!
「風丸」
僅かにトーンの下がった声が耳元で囁かれる。それが己の名であることに、風丸は頷いた。
「円堂」
名を呼べば、少し間を空けて体が離れる。じっと見詰め合うと、円堂はゆっくり目を閉じた。まるい大きな瞳が閉ざされ、自分を映さないことに内心がっかりしながら、風丸はそろりと唇を寄せる。円堂は、動かない。
「円堂」
好きだ。大好きだ。だからどうか、俺だけのものになって。
触れ合うすれすれのところで、ありったけの思いを込めて名を呼ぶ。それでも円堂から寄せられることのない唇に、風丸は唇を重ねた。